Anthropicは10月20日、同社の「Claude Science」チームが、AIモデルにサソリ毒素を中和する新規たんぱく質(ミニバインダー)の設計を担わせる研究結果を公開した。サソリによる刺傷は世界で年間3250人超の死者を出し、被害者の多くは十分な医療を受けられない子どもだという。既存の治療法は高コストな割に商業的な採算が取りにくく、同社はこの分野を「顧みられない(neglected)」領域と位置づけている。この取り組みは金融系の投資調査会社Citrini Researchと共同で進められ、同社が改良したプロンプトを与えられた社内の研究モデルが、その後の4回の追加指示を除きほぼ自律的に作業を進めた。
対象としたのは、メキシコ・ブラジル・北アフリカ・中東の4地域に由来する5種類の神経毒素(Cn2、Ts1、AaH I、AaH II、LqhIII)。モデルはタンパク質構造データベースやAlphaFoldの予測構造から各毒素の立体構造を選び、毒素ごとに5カ所の標的部位を指定した上で、12種類の設計ツールを使って31万8484種の候補を生成し、55万3052通りの「設計×毒素」の組み合わせを計算機上でスクリーニングした。最終的に211種類を選び、Adaptyv Bio(無細胞発現系)とTwist Bioscience(ヒト腎臓由来細胞でのFc融合タンパク質発現)の2社に製造・試験を委託し、両社とも表面プラズモン共鳴(SPR)法で結合親和性(解離定数1マイクロモル以下)を確認できたものだけを「成功」と判定する厳格な基準を設けた。
結果、211種類中17種類が基準を満たしたが、これらはすべて単一の毒素だけを狙った設計(60種類中11種類、約18%が成功)から得られたもので、2種類・3種類・5種類すべてを同時に狙った設計(合計121種類)では1つも基準を満たさなかった。毒素別の内訳はCn2が7種、AaH IIが4種、AaH Iが4種、LqhIIIが2種。中でもCn2を狙った2種類の設計は、両社でナノモル濃度という高い親和性を示し、マウスでCn2を中和すると報告されている既存の抗体と結合部位が重なっている可能性も確認された。これは中和効果を示唆するものの、証明するものではないとAnthropicは注記している。
同社は、実際に細胞内や生体内でサソリ毒を中和できるかはまだ確認できていないとした上で、他の研究者が後続研究に使えるよう、211種類すべての設計データ・予測構造・スコア・実験結果をHugging Face上で公開した。外部の専門家からも反応があり、スペイン国立がん研究センター(CNIO)のスサナ・バスケス=トーレス氏は「有望な第一歩」とコメント、デンマーク工科大学のティモシー・ジェンキンス氏も「治療薬探索におけるAI主導のパラダイムシフトを示す好例」と評価した。
出典: Anthropic公式研究ブログ



